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バングラデシュで見た「船の墓場」の真相|船舶解体の抱える問題と現状とは?!【2023年最新】

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バングラデシュには船の墓場と呼ばれる船舶解体が盛んな地域があり、労働問題や人権問題、環境汚染などに関して世界的に非難を浴びてきた過去があります。

昨年末にバングラデシュを旅する機会があり、チッタゴンにある世界最大規模の船の墓場を実際に訪れることができました。そこで私が見た事実が全て真実とは限りませんが、良い意味でも悪い意味でも衝撃を受けました。船舶解体の抱える問題は現在どれほど改善されているのか?過去にバッシングを受けた内容から実際に見て知った現状まで詳しく紹介します。

こんな方にオススメ!
  • 船の墓場とは何か?
  • 船の墓場が抱える問題とは?
  • 解体作業の今後の在り方について

船の墓場とはそもそも何のことか、なぜバングラデシュに存在するのか、どのような問題が取り上げられたのか、過去のメディア記事や政府機関等の調査資料をもとに分かりやすくまとめています。さらに私自身が実際に見た「船の墓場」の現状、そしてこれから世界各国が取り組むべき課題についても本記事で紹介しています。

なお、船の墓場へのアクセス方法や注意事項についてはこちらの記事を参考に。

本記事が少しでも参考になれば幸いです。

船の墓場とは?!

船の墓場とは、現役を退いた旅客船や貨物船が処分(船舶解体)される一帯を指しており、バングラデシュ以外にインドやパキスタンにも存在します。膨大な数の老朽化した船舶が1ヵ所に集められて最終処分として最後を迎えること、異様な光景がまるで墓場のようであり皮肉を込めて呼ばれています。ちなみに「墓場=埋葬」と連想されますが、不法投棄されるわけではありません。

船舶解体で発生するスクラップや部品は再利用される

長年の航海を終えて老朽化した船舶には最後の役目が残っています。船には多くの部品や鉄鋼材が使われており、解体作業で発生する鉄くずなどのスクラップは廃棄物として処分されるのではなく「資源」としてリサイクルされます。鉄やアルミニウム、ニッケルなどの金属資源、船舶に内装された備品やレンズ、プロペラ、エンジンなどの設備機器も細かく分類して再利用・売却できるため、廃棄されずに二次利用されています。

船舶解体(シップリサイクル)では鉄板からボルトやネジの1本にいたるまで細かく仕分けされて、船の95%以上(重量ベース)が余すことなく再利用されています。バングラデシュの解体業者が約5億円で老朽化した船舶1隻を購入した場合、得られる利益は約1億円にものぼると言われています。

なぜ、バングラデシュに船は集まるのか?!

バングラデシュ第2の都市チッタゴンの船舶解体は世界最大規模と言われています。そして世界中から解体を待つ船舶が集まる理由は、特殊な地形安価な人件費にあります。

船舶解体の設備が乏しい発展途上国では、解体ヤードで船を固定させて解体作業するのではなく、「ビーチング方式」と呼ばれる、満潮時に海辺まで船を引っ張り、潮が引いたあとに浜辺に打ち上げられた船を人海戦術で解体する方法がこれまで採用されており、干満差が大きなチッタゴンの海岸ではこの従来の解体方法に適しているため、次々と解体作業が行われるようになりました。

バングラデシュでは約70社ほどの解体業者が事業を行っており、世界で最も船舶解体ビジネスが盛んな国。2017年の年間取扱総量において、バングラデシュは630万トンと世界シェアの約30%を占めています。また次いでインド(576万トン)、パキスタン(430万トン)、中国(357万トン)が続き、上位4カ国だけで市場全体の90%とほぼ全ての解体作業が行われています。
参考:JETROの進む環境改善、船舶解体業者の取り組みより引用

もう1つの理由としては、労働者を低賃金で雇えることが挙げられます。バングラデシュは貧困国なうえに人口は約1億7,000万人もいるため必然と労働人口は多くなり、解体業者は作業員の人件費を安く抑えることができます。

経費として大きな割合を占める人件費を抑えることで船舶解体業者はその分多くの利益を得ることができます。また先進国における船舶解体業については解体設備が充実している反面、労働者の人件費が高く、またシップリサイクルの法令遵守を徹底していることにより船舶を売るバイヤーが高額で売却できないため、バングラデシュのような発展途上国での船舶解体が盛んに行われるようになりました。

船の墓場が抱える問題とは?

バングラデシュのような発展途上国にとって船舶解体は重要な一大産業。大切な資源として再利用していることから一見すると良い取り組みのように思えますが、労働、人権、環境に関する多くの問題を抱えています。

我々の想像を絶する労働環境

日本社会において「ブラック企業」という言葉が当たり前に蔓延していますが、バングラデシュにおける船舶解体は想像以上に劣悪です。過去に3K「きつい・汚い・危険」の代表格だった建設業界が敬遠されたり、最近では一般職においても新3K「帰れない・厳しい・給料が安い」という言葉もありますが、バングラデシュの解体現場で働く労働者の境遇は私たちが考える悲惨さの限度をはるかに超えています。

バングラデシュでの解体現場の実態が世界的に知られ始めたきっかけは今から約10年前の2014年。アメリカの大手メディア、ナショナルジオグラフィックが発表した記事によって衝撃的な事実が露呈しました。

  • ヘルメットや安全靴が作業員に支給されていない
  • 落下阻止器具、足場の設置なしでの危険な高所作業
  • アスベストやフロンガスなど有害物質に対する安全措置が未実施
  • 油汚染防止の排水路が未整備、汚染水の海洋投棄など適切に処理されていない
  • 18歳未満の子供が就労している

上記は同メディアで告発された内容を抜粋したものです。
参考:ナショナルジオグラフィックより

ブラック企業という言葉で表現できる範疇を超えていることがわかります。作業員に対する安全対策は不十分で、ヘルメットや安全靴などのPPE(個人用防護具)が支給されてない、高所作業をする際に足場なし、命綱なしで作業員がメタルカッターで金属を切断している、アスベストやフロンガスなど有害物質に対する安全措置・注意喚起されないまま作業させられている等、危険な仕事にも関わらず労働環境は劣悪でした。死に至らなくても不意の爆発によって手足を失ったり、肺ガンなどの疾病、さらには仕事を離れた後もストレスによる抗うつ状態に悩まされる事例などが後を絶たない状況は世界中に衝撃を与えました。

解体現場で働く労働者の賃金は?

これだけの過酷な労働にも関わらず、労働に対する対価=給料も悲惨そのもの。

日本におけるアルバイトの全国平均時給は2022年度で961円。バングラデシュとは物価が違うので日本の5分の1、もしくは酷い場合でも日本の10分の1くらいと思うかもしれません。

結論からお伝えすると、時給は50円以下です。

過酷すぎる労働を10時間働いたとしても日本でアルバイトした1時間分の給料も貰えません。しかも働く労働者はバングラデシュの地方から出稼ぎにきた一家の大黒柱。1人分の生活だけであればまだしも、大半の労働者は家族を養うために働いているため、仕事を辞めることはもちろん、休むことも難しい状況です。

発展途上国における船舶解体は労働時間と給与の低さから「現代の奴隷制」と揶揄されることも。全国各地から家族を養うため、生活のために仕事を求めて集まった作業員たちは解体作業の側にある小屋に集団で住み込みで働くことを課せられます。2018年に調査した内容によると、1日14時間シフトで週6日間、日給は5ドル以下という過酷な環境で働いていたとされています。
参考:船の墓場 南アジア(Gloval News View)より引用

他にも、生活のために18歳未満の子供が父親に連れられて児童就労せざるを得ない状況や、解体作業で発生する油汚染に対する措置が取られてない、有害な化学物質をそのまま海洋投棄するなど環境汚染においても問題を抱えており、国際労働機関(ILO)や国際海事機関(IMO)によって認可されてない方法での解体作業が平然と行われていました。

そのため状況を是正するために、EU諸国など一部の国では船舶解体の環境が整っていない事業者には船舶を売却しないなど二次・三次被害を抑えるための動きもあり、特に投資家の意識が高いノルウェーでは不適切な取引を実施している船舶会社の株は売却する対策が講じられています。しかしながら世界的なルールとして法規制までは進んでおらず、抜本的な解決には至っていません。

船舶解体現場の実態について【直近訪問】

私がチッタゴンの船の墓場を訪れたのは2022年12月。悲惨な状況が世界的に知られるようになってから暫く経ちます。海外メディアやジャーナリストに度々告発されたこともあってか、ほぼ全ての解体業者は関係者以外が立ち入りできないよう厳重に警備されていました。

幸いにも私は地元の方の協力もあり船の墓場に辿り着くことができたので、私が実際に見たままの状況を共有します。

チッタゴンの船の墓場の航空画像

こちらはチッタゴンの西海岸をGoogle Earthでキャプションした画像です。海岸沿いに何隻もの船舶が停泊しているのが分かるかと思います。

チッタゴン空港から「Bhatiari」という場所にタクシーで向かい、解体作業の現場に潜入できそうな場所を探しました。

このように敷地に入る前に厳重なゲートがあり、関係者以外は中に入れません。解体業者はチッタゴンだけで約70社あるといわれてますが、私が見た限りはどこも同じようにセキュリティは高めでした。

雇用に関する注意書き

入口に掲げられていた看板を見ると、注意書きとして「18歳未満の方は雇用できない」ことが記されています。しっかり徹底されているかは不明ですが、バングラデシュ政府による法規制は解体事業者に通達されていることが窺えます。

解体業者の私有地には無断で入れないため苦労しましたが、近くの集落にいた住民の協力を得て、グレーゾーンとも言える解体業者同士の隙間から海岸を訪れることができました。

海上には大型船舶がそして手前には巨大な球形タンクが干潮となり水位が低くなった場所に取り残されていました。

解体途中の船舶が浅瀬に停泊しており断面が綺麗に切断されていることから重機を使用したと思われます。そして停泊地点から沖合ではない場所で解体されたのではと判断できます。

少し離れた場所には日本の船舶も発見しました。

側面には貨物フェリーと記載されており、日本国内(鹿児島市‐種子島)で運航していた船舶が停泊しています。まさに最後の時を迎えようとしている日本船舶を実際に目の当たりにして、かなりの衝撃を受けました。

2016年時点での世界で解体された海洋船舶の所有者トップ5か国は、上位からギリシャ、中国、ドイツ、韓国、日本となり、日本の船舶も5位にランクインしています。
参考:船の墓場 南アジア(Gloval News View)より引用

続いて、船舶解体の現場について。

こちらでは切断された船を各部品ごとに細かく解体していました。遠目に見える作業員はヘルメットを着用しているため最低限の安全対策は施されているようでした。

また船舶解体によって分解された部品や鉄鋼資源はきちんと仕分けされています。

解体業者の周辺には部品の卸業者であろう会社がいくつも密集していました。

以上が私が訪れて確認できた内容となります。

こちらの内容については憶測も含まれているため「思われる」のように曖昧な表現を使用しています。私が訪れて見たままの事実をお伝えしてますが、あくまでも解体現場の一部であり、船の墓場の全貌までは把握できてないことをご理解お願いします。

船舶解体における今後の課題と展望とは?

船舶解体については労働災害や環境汚染が国際的な課題となっており、バングラデシュのみならず、造船業・シップリサイクル業に携わる世界各国がともに法整備など国際ルールを設けて同じベクトルで取り組まない限り、解決には向かいません。

我々日本人にとっては馴染みがなく、本記事によって船舶解体の問題を初めて知った方も多いと思います。しかしながら、造船大国である日本国としては世界に先駆けて長きにわたり対策に向けた働きかけを行っていました。

2009年5月にシップ・リサイクル条約が採択

日本主導で国際海事機関(IMO)に働きかけたことにより、船舶の解体における労働安全確保と環境保全を目的とした「2009年の船舶の安全かつ環境上適正な再生利用のための香港国際条約」と呼ばれるシップ・リサイクル条約(Hong Kong Convention:HKC)が採択されました。

船舶のリサイクルにおける環境汚染問題や労働災害を最小限にするために、批准国は以下をクリアする必要があると定めています。

  1. 船舶に関する要件
  2. 船舶解体施設に関する要件
  3. 船舶解体の手順

しかしながら、HKCが採択となっても違法な行為に対して罰金や処分が下るわけではなく、単に行動指針が決められただけで効力はありません。実際に効力が発生するためには以下の条件があります。

本条約は、①15ヵ国以上が締結し、②それらの国の商船船腹量の合計が世界の商船船量の40%以上となり、かつ、③それらの国の直近10年における最大の年間解体船腹量の合計がそれらの国の商船船腹量合計の3%以上となる国が締結した日の24箇月後に効力を生じることとなっている。
参考:国土交通省の報道発表資料より引用

2025年「シップ・リサイクル条約」の発効確定!

HKCの発効には前提として、インドやバングラデシュなどの船舶解体の主要国が締結しない限りは実現しません。条約の発効には困難を極めましたが、日本政府がバングラデシュ政府に対して廃棄物最終処分場の整備等の支援を検討するなど働きかけた結果、ついに直近の2023年6月23日にバングラデシュが条約締結に合意しました。さらに、同日付で便宜置籍船を多数保有するリベリアも条約を締結したことにより、条約の発効要件を満たしました。

発効日は条約通り、2年後の2025年6月26日となります。そのため、バングラデシュの船舶解体における労働問題や環境問題の改善はもちろん、シップリサイクル業界全体においても明るい兆しがみえます。

日本政府は円滑な発効および着実な実施に向けて、国内外の関係者と連携して取り組むと発表しており、本条約の発効により安全で環境に配慮した船舶の解体が国際的に担保されるとともに、脱炭素化船等への円滑な代替に向けた環境整備が進み、海上輸送のカーボンニュートラルの加速化にも繋がると見解しています。
参考:国土交通省の報道発表資料より引用

まとめ

本記事ではバングラデシュのチッタゴンにある世界最大規模の船舶解体、通称「船の墓場」について、過去に非難を浴びた問題から直近の状況、そして今後の課題や取り組みについて紹介しました。

過去の事実を知らなかった方にとっては、かなりショッキングな内容だったと思います。

船舶解体に従事する労働者に聞いた話として、ここ最近は労働環境も以前と比べて大分改善されており、人海戦術に頼らずに重機なども船舶解体に用いられているとのことでした。また作業員の安全面を考慮して、ヘルメットや作業靴など最低限の装備は貸与、18歳未満の方は完全に働けなくなったとのことです。ただし全ての解体業者が当てはまるのか伺うと、少し言葉を濁らせていたのが印象的でした。

また日本政府が主導して実現できたシップ・リサイクル条約発効は、大きな前進です。これにより国際的にも労働問題や環境問題は改善される方向に進むことが期待されます。

しかしながら、バングラデシュにおける同条約の基準とする全ての要件を満たした船舶解体業者は、2023年3月時点ではまだ、PHP社(PHP Ship Breaking and Recycling Industries Ltd.)の1社のみとなります。今から2年後の2025年6月26日に発効となりますが、その時点で全ての解体業者が要件をクリアしない場合、船舶解体に取り組める解体業者が減少することになる為、結果として雇用の減少、鉄資源不足となりバングラデシュ経済に悪影響を及ぼす可能性もあります。

今後も日本政府はバングラデシュを支援することに合意しており、一刻も早く他の解体業者もPHP社と同様に適合していけるよう、そして労働者と自然環境に配慮した方向に舵を切れることを切に願います。

最後に、これからチッタゴンにある船の墓場を訪れる予定の方は、以下の記事でアクセス方法などを紹介しているので参考にしてください。

ここまで読まれた方は理解されていると思いますが、船の墓場は観光スポットではありません。作業員や解体現場を無断で撮影してトラブルにならないように訪れる際はくれぐれも注意してください。

本日は以上となります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。少しでも参考になりましたら幸いです。

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