バングラデシュには『船の墓場』と呼ばれる奇怪な場所があります。人気TV番組クレイジージャーニーで話題に取り上げられたこともあり聞いたことがある方もいると思いますが、世界最大規模とされるチッタゴンにある船の墓場は、厳重に警備されているため間近で見ることは難しい場所になります。
今回、私は昨年末にバングラデシュを観光する機会があったので、負のイメージは過去のものなのか?実際に訪れた情報をもとに真相をレポートします!
特にこれから訪れる予定の方は必見。
理由は、正確な場所を知らないと間近で船の墓場を見られないからです。
本記事では、世界最大規模の船舶解体が行われているチッタゴンにある船の墓場を実際に見ることができた位置情報、そして私が目の当たりにした船の墓場の様子、訪れる際の注意事項をそれぞれ紹介します。
また記事の最後にはこれから訪れる方のために、「船の墓場が見られる場所をピックアップする方法」を紹介しています。
連絡先交換した地元の方の協力を得たうえでアップデートしているので、2023年時点の最新情報として共有します。本記事が少しでも参考になれば幸いです。
船の墓場とは?!
船の墓場とは、解体作業を控える船舶が1ヵ所に密集していることから名付けられた俗称です。石油や天然ガスなど資源を運ぶタンカーや物資を詰め込んだコンテナ船など、長年の運搬業務を終えて老朽化した船舶は最後の役目として、船内の装飾品からエンジン類などの精密機械だけでなく、鉄板やボルト、ネジの1本に至るまで細かく分類したうえで再利用されています。
重量でみると実に船体全体の95%、ほぼ全てが余すことなく再利用されており、船舶業者は安く船舶を購入しリサイクルすることで収益を確保しています。商売の鉄則として「安く仕入れて高く売る」ことが求められますが、解体費用を抑えることが必然的に可能な人件費の安い発展途上国に世界中から船舶が集まることになり、バングラデシュやインド、パキスタンなどでは国の一大産業として船舶解体が行われています。
船舶解体はリサイクル産業として良い事業に思えますが、貧困国ならではの人権問題や環境問題など大きな問題を抱えています。過去に世界中から非難を浴びたことで解体業者はジャーナリストやメディアに取り上げられることを嫌い、一般的に解体作業の現場は関係者以外が立ち入ることができず厳重に警備されており、基本的に船舶解体の現場を間近で見ることはできません。
バングラデシュにおける船舶解体が抱えるネガティブな問題や今後の課題については別記事で詳しく紹介しています。
船の墓場への行き方と注意事項
今後訪れる予定の方のために船の墓場までの行き方と注意事項をお伝えします。
船舶解体はバングラデシュの首都ダッカでも行われていますが、世界最大規模の船の墓場はチッタゴンというバングラデシュ第2の都市にあります。
車移動だと首都ダッカから約5時間かかりますが、飛行機を利用すれば所要時間はたったの55分。航空券は空港カウンターもしくは航空会社のウェブサイトからオンラインで購入できます。
チッタゴンはダッカに次いで2番目に人口の多い都市。首都ダッカからチッタゴンまでの国内線は1日10便以上も運航しているので飛行機での移動が最適です。国内線は、USバングラ航空やビーマンバングラデシュ航空、ノボエアなど利用可能。航空券は片道4,000円ほどです。
そして、チッタゴンのシャーアマーナト国際空港に到着してから船の墓場(船舶解体の作業場)に向かうには空港タクシーを利用することになり、2023年現在ではGrabやUberなどの配車アプリは使用できません。
こちらが空港タクシーの運賃表⇩
ちなみに運賃表の側にいる方々はタクシー運転手。我先にと一斉に声を掛けてきます。。
エリア毎に細かく料金設定されてますが、交渉次第でそれ以外の場所にも移動可能です。私が行き先として目星を付けた「Bhatiari」というエリアは記載がなく、交渉して1,700タカ(約2,200円)で直接向かってもらいました。首都ダッカでの移動で大活躍したCNG(シンジー)と呼ばれるリキシャーは利用できないため移動費は高めです。
船の墓場が見られるオススメの場所について
船の墓場は1ヵ所に集中していると思われるかもしれませんが、それは間違い。
チッタゴンの西海岸の一部をGoogl Earthで撮影したものがこちら⇩
海岸沿いに船舶が停船しているのが見えますが、これら一帯を総称して「船の墓場」と呼んでおり、広大な範囲に及びます。
南北にいくつもの船舶が見えるように西海岸一帯が船の墓場と呼ばれるエリアになります。そして海岸沿いは解体業者の私有地となり解体業者は隙間なく隣接しているため、基本的に解体作業の現場には私有地を通らないかぎり近付くことができません。
海岸沿いまで続く道はなく、基本的に解体業者の私有地を通過する必要があります。
このようにフェンス越しに敷地内を覗ける場所はありましたが、許可なく解体業者の私有地に入ることはできません。ダメもとで警備員に自分はジャーナリストではなく観光客であること、海を少しだけ撮影したいことを伝えましたが許可はやはり下りませんでした。
解体業者のゲートから正面突破は難しいため私は別の方法で潜入しました。
その方法とは!?
ずばり!横に隣接する解体業者同士の隙間を探して潜入しました!
解体業者の作業員や警備員にお願いしても無理だと判断したので、海岸沿いに住む現地の方に聞き込みを開始しました。
そして心強い協力を得て、グレーゾーンとも言える私有地同士の隙間を発見できました!
こちらは左右で別々の解体業者の建物となります。そのためこの通路は私有地の外になるため無事に通過することができました。
参考までに、こちらの「抜け道」までのアクセス方法と位置情報を共有します。
東側にある主要道路から向かう場合、上記のルートで向かうことができます。解体業者間の隙間(抜け道)については以下の位置情報を参考にしてください。
船の墓場で見た驚愕の光景
いよいよ船の墓場の現状を紹介します!
こちらが隙間を抜けて私が見た光景です。
いかがでしょうか??
巨大な球が無造作に置かれてあり、かなり奇怪な光景が待ち受けていました!
こちらの画像を見ればどれくらい巨大かが分かるかと思います。
右側に青い服を着た人物(監視員)がいるので比較すれば巨大さが一目瞭然です。
こちらの球形の建造物は、エネルギー輸送で使用されるLNG船に搭載されていた独立球形タンクとのこと。無秩序に放置されている様子が非現実感すぎて、まるで異世界にいるかのようでした。
私が訪れた場所では数隻しか船舶は見られませんでしたが、それでも大型船舶が切断されて海面に浮かぶ姿は衝撃的でした。
停船している場所が浅瀬であることが分かるかと思いますが、チッタゴンの西海岸沿いは干潮差が大きく干ばつ後に作業員が解体しやすい環境が揃っており、その結果、船の墓場と呼ばれるほど船舶解体が盛んに行われてきた背景があります。
そして海岸沿いでは実際に船舶の解体作業が進められていました。
ある程度、解体が終わりかけのようですが数十名の作業員が働いている姿が見えました。
遠目からしか撮影できませんでしたが、ヘルメットは全員着用しているように見えます。実は撮影している間はすぐ側で警備員が私たちを監視していました。少し近づこうとすると「ストップ!」と声を掛けられたので、今いる場所はギリギリセーフのラインにいたことになります。
訪れた当時は「船の墓場の現状を見ることができた!」と思っていたのですが、今となって振り返ると撮影しても差し支えのない、問題のない部分を”あえて”撮らされていた可能性もあります。
私が見た限りでは、過去に非難を浴びたような劣悪な労働環境は改善されたかのように感じました。現在進行形で日本政府がバングラデシュの船舶解体について支援しており、世界各国が合意する船舶解体のリサイクル法案が施行されるのも時間の問題です。その際に、チッタゴンにあるすべての解体業者が基準をクリアしていることを願うばかりです。
こちらの船の墓場まで不法侵入せずに到着できましたが先ほど紹介した抜け道を含めて私有地の可能性はゼロではありません。また作業員や警備員に撮影を止めるように指示された場合はトラブルを避けるために退去してください。
まとめ
今回はバングラデシュのチッタゴンにある世界最大規模の「船の墓場」について、首都ダッカからの移動方法と私が実際に訪れた場所、そして奇怪な光景を紹介しました。
船舶解体が見られる場所は他にもあり、違う場所を訪れたい場合は私の経験上、以下の2つを参考に下調べすると良いかと思います。
- Google Earthで船舶が多く集まっている、解体作業の場所を特定する
- 解体業者同士が隣接し、周辺に集落がある場所を絞り込む
チッタゴン西側の海岸沿い一帯で船舶解体は行われているので、Google Earthで船舶が密集している場所はどこか、いくつか探すことから始めると訪れる場所を選定しやすいです。また海岸沿いまで向かうには解体業者同士の隙間をかいくぐるしか方法がなく、隣接していても建物同士が繋がっており隙間がない、隙間があってもマングローブ?林に覆われていて通過できないケースが大半でした。海岸沿いにはいくつも集落が存在し作業員ではなく一般の村人が住んでいます。そして隙間を発見したのは私ではなく地元民。地元民だからこそ海岸沿いまでの抜け道を知っているので「Shipbreakingが見たい」と伝えて案内してもらいました。そのため周辺に小さな集落がある場所に絞り込むと海岸沿いに到着できる可能性が高いです。
最後に、重要なことを1つお伝えします!
今回紹介した船の墓場は観光スポットではありません。そして当然ながら私有地へ勝手に入ることは不法侵入となり違法です。私有地でない場所でも解体業者は作業現場を見られる、撮影されることを嫌がると予想されます。これから訪れる予定の方は違法行為をしないこと、解体業者の関係者に止められた場合は素直に従うなど、トラブルに巻き込まれないよう自己責任でお願いします。
私自身は、巨大な船舶が密集する光景を見たかったことが訪れた一番の動機でしたが、同時に船舶解体における問題を多方面から調べたことで、発展途上国で船舶解体が実施される理由から労働者が過酷な状況にも関わらず働くバングラデシュ経済、そして老朽化した船舶を適切に処理するために必要な今後の取り組みや課題など多くのことを考えさせられました。ちなみに日本企業が所有していた船舶も大半がバングラデシュで解体されており、我々日本人も無関係ではありません。
船舶解体における問題や課題について別記事に詳しくまとめています。少しショッキングな内容となりますが、これから訪れる予定の方は事実を知ったうえで船の墓場を訪問するか判断してください。
本日は以上となります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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