マレーシアは、日本の住民税や国民年金の負担がない分、税負担は軽いと言われがちです。
しかし、マレーシアの所得税は年間課税所得がRM100,000を超えると税率は25%になり、意外と負担は小さくありません。
そこで重要になるのが、
マレーシアの公的年金制度であるEmployees Provident Fund(EPF)。
これまで外国人は任意加入でしたが、2025年10月の法改正により加入が義務化され、会社2%・本人2%が最低ラインとなりました。しかし、マレーシアで働く日本人の大半は、EPF拠出率に対して何も手を付けずに、なんとなく最低拠出率のままになっていないでしょうか。
結論、個人拠出率は「最低」のままだと損します。
今回は、そもそもEPFとは何なのか、EPF拠出率を引き上げた場合、どの程度の節税効果と資産形成メリットがあるのか、月給RM10,000のケースを例にして、詳しく徹底解説します。
- マレーシアで就労している日本人(駐在員・現地採用)
- 所得税は払っているが、EPFを「よく分からず最低限」にしている
- 手取り収入よりも「在職中の効率的な資産形成」に関心がある
EPF(Employees Provident Fund)とは?
給与明細を見た際に、「EPF Employee」という項目で毎月の給料から差し引かれていると思いますが、Employees Provident Fund (従業員積立基金)は、マレーシアの公的年金制度です。日本の厚生年金に近い位置づけで、EPF自体は給与の一定割合を会社と本人が拠出し、その資金が個人名義の口座に積み立てられ、拠出したお金は自分の資産として残り、マレーシア政府によって管理されることになります。
EPFへの加入は、マレーシア国民は原則義務、外国人は任意加入でしたが、法改正により現在は外国人にも加入が義務化されました。最低拠出率は会社2%・本人2%となっています。
そして、個人拠出額は年間RM100,000まで増やすことが可能です。
個人拠出率を最低限の2%にとどめるのか、それとも増やすべきか。この違いが、数年後に明確な差を生みます。
別途、給与明細に記載される「SOCSO」は、労働災害や疾病に備えたマレーシアの公的保険制度(社会保障機構)で、医療補償や障害補償などを提供するために充てられます。日本人を含む外国人労働者も加入が義務付けられており、月給が6,000リンギットを超える場合は、一律で最高拠出額(雇用主:104.15リンギット、被雇用者:29.75リンギット)が適用されます。(SOCSOは積立式ではなく掛け捨て)
EPFが「活用する価値がある」3つの理由
EPFは、マレーシア人だけを対象にした積立制度ではありません。仕組みを理解すると、外国人労働者にとっても活用価値のある制度だと分かります。
個人拠出分は課税所得の控除対象になる
EPF拠出分は、所得税計算上の控除対象となり、個人拠出率を引き上げると、所得税額を減らすことができます。
ただし、個人拠出額のうち年間で最大RM7,000までが所得税控除の対象です。
EPFには毎年配当(利回り)が付く
EPFはマレーシア政府による毎年の運用実績に基づき配当率が決定し、拠出額には配当が付きます。過去の実績を参考にすると、銀行の定期預金より高い水準で推移してきたことがわかります。
| 年度(実績) | Conventional(従来型) | Shariah(シャリア) |
| 2025年 | 6.15% | 6.15% |
| 2024年 | 6.30% | 6.30% |
| 2023年 | 5.50% | 5.40% |
| 2022年 | 5.35% | 4.75% |
| 2021年 | 6.10% | 5.65% |
EPFには、従来型の「Conventional(コンベンショナル)」と、イスラム金融に基づいた「Shariah(シャリア)」の2種類の口座がありますが、外国人が新規加入する場合、デフォルトでは「Conventional(従来型)」になります。
直近では6%を超える高い配当率となります。国家運営の公的基金という位置づけで安定運用が前提とされており、単なる「積立」ではなく、積立+運用の仕組みになっている点は大きなメリットです。
Shariah (シャリア)口座は、イスラム法(シャリア)に準拠しており、非倫理的とされる業種(アルコール、賭博、武器、利子ビジネス等)への投資を排除したもの。「自分の年金が社会的に好ましくない業種に使われたくない」と考える方には、シャリア型が適してますが、従来型と違って運用による「2.5%の最低保証」はありません。また一度シャリアに切り替えると、二度と従来型に戻すことはできないため、日本人の場合はそのまま変更されないことをおすすめします。
外国人は退職・帰国時に一括引き出しが可能
日本人を含む外国人の場合、定年まで待つ必要はなく、マレーシアでの雇用終了後、一括で引き出すことが可能です。そのため、「定年まで出金できない資金」ではなく、実質的には税優遇付きの積立口座に近い性質を持ちます。
マレーシアの大手銀行の定期預金は、日本とは違って金利3-5%前後あり資産運用に人気ですが、EPF積立は直近ではさらに高い6%超の配当利回りがあります。また、最大RM7,000までは非課税となるため、所得税の減税効果もあり、将来的に日本へ帰国する予定がある人にとっては、より利用価値が大きいと言えます。
マレーシアの個人所得税率について
マレーシア居住者の場合の所得税率は下記のとおり。
| 課税される所得金額 (RM) | 税率 (%) | 各層の税額 (RM) | 税額 [累計] (RM) |
| 0 – 5,000 | 0% | 0 | 0 |
| 5,001 – 20,000 | 1% | 150 | 150 |
| 20,001 – 35,000 | 3% | 450 | 600 |
| 35,001 – 50,000 | 6% | 900 | 1,500 |
| 50,001 – 70,000 | 11% | 2,200 | 3,700 |
| 70,001 – 100,000 | 19% | 5,700 | 9,400 |
| 100,001 – 400,000 | 25% | 75,000 | 84,400 |
| 400,001 – 600,000 | 26% | 52,000 | 136,400 |
| 600,001 – 2,000,000 | 28% | 392,000 | 528,400 |
| 2,000,000超 | 30% | – | 528,400〜 |
所得税は段階的に決められた税率に変動する累進課税となります。
参考:JETRO マレーシア税制
<例:1年間の課税所得がRM120,000の場合>
RM100,000まではRM9,400の所得税、RM100,001-RM400,000の残りRM20,000に対してのみ税率25%(RM5,000)が掛かり、 合計RM14,400(約57.6万円)が1年間の所得税額です。
居住者でない場合(マレーシアに1年間で183日以上滞在してない個人)は、税率が一律で 30% になります。累進課税が適用されないため、年間でRM120,000の課税所得があった場合は、所得税はRM36,000(約144万円)となります。*累進課税は適用されない
シミュレーション(概算)
年間総資産について、どの程度の影響を受けるのか、EPFの個人拠出率を「最低2%・6%・15%」の3パターンでシミュレーションしました。
なお、計算は以下の前提条件に基づいています。
- 総収入:RM120,000(月給RM10,000想定)
- 給与天引きされるSOCSO(毎月RM29.45)は除外
- 1年間の基礎控除(RM9,000)のみ考慮
- その他の医療費控除、配偶者控除、ライフスタイル控除などは含めない
そのため、EPF拠出率の違いによる影響を単純比較するための試算となり、実際には誤差が発生することに留意してください。またEPF運用益については別途後述します。
| 項目 | 個人EPF 2% | 個人EPF 6% | 個人EPF 15% |
|---|---|---|---|
| 総収入(給与) | 120,000 | 120,000 | 120,000 |
| 会社EPF(2%) | 2,400 | 2,400 | 2,400 |
| 個人EPF | 2,400 | 7,200 *非課税はRM7,000まで | 18,000 *非課税はRM7,000まで |
| 基礎控除 | 9,000 | 9,000 | 9,000 |
| 課税所得 | 108,600 | 104,000 | 104,000 |
| 所得税 | 11,550 | 10,400 | 10,400 |
| 手取り給与 | 106,050 | 102,400 | 91,600 |
| EPF積立総額 | 4,800 | 9,600 | 20,400 |
| 年間総資産 | 110,850 | 112,000 | 112,000 |
※個人EPF拠出率が6%の場合、RM7,200となるが、非課税は最大RM7,000となる。
比較表だけで判断すると、年間総資産は6%・15%がともに同額になります。そのため拠出率を高くしなくても6%だけでも十分に思えるかもしれません。しかし、この比較表ではEPF運用益を加味しておらず、EPFは複利で利回りが付くため、長期で積み立てる場合はかなりの恩恵を受けられます。
EPF運用:1年シミュレーション
こちらは毎月の総収入(給与)がRM10,000の場合にEPF個人拠出率を2%・6%・15%で積み立てた場合のシミュレーションです。運用益は直近の6%で算出しています。
| EPF 個人拠出率 | 個人EPF額 (RM/年) | 会社EPF額 (RM/年) | EPF運用益 (RM/年) | EPF累計額 (RM/年) | 手取り給与 (RM/年) | 総資産 (RM) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2% | 2,400 | 2,400 | 288 | 5,088 | 106,050 | 111,138 |
| 6% | 7,200 | 2,400 | 576 | 10,176 | 102,400 | 112,576 |
| 15% | 18,000 | 2,400 | 1,224 | 21,624 | 91,600 | 113,224 |
EPF利回りを考慮した場合、個人拠出率15%がRM1,224プラスの利回りとなり総資産が最大化します。理由は、EPFは単純複利計算で年末に加算されるため。この「複利」が大変魅力であり、同率で3年間運用するとさらに資産が増加します。
EPF運用:3年シミュレーション
こちらは、先ほどの1年シミュレーションと同率のまま、3年間運用した場合のシミュレーションです。
| EPF 個人拠出率 | 個人EPF額 (RM/3年) | 会社EPF額 (RM/3年) | EPF運用益 (RM/3年) | EPF累計額 (RM/3年) | 手取り給与 (RM/3年) | 総資産 (RM/3年) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2% | 7,200 | 7,200 | 1,798 | 16,198 | 318,150 | 334,348 |
| 6% | 21,600 | 7,200 | 3,596 | 32,396 | 307,200 | 339,596 |
| 15% | 54,000 | 7,200 | 7,642 | 68,842 | 274,800 | 343,642 |
3年間にわたり個人拠出15%で運用した場合、最低拠出率2%と比較すると、RM9,000以上も資産が増加し、6%と比べてもRM4,000以上も収入が増えることになります。
所得税の控除が受けられるRM7,000を超えたとしても、すぐに現金を必要としない場合は、長期積み立てを検討されると資産運用としても役立ちます。
まとめ:EPF積立は節税&資産形成に最適です!
これまで「EPFは自分には関係ない」と手を付けなかった方が多いと思います。しかし昨年度から外国人労働者もEPF加入が義務化され、拠出率の設定が重要になりました。本記事では、どのくらいの拠出率に設定すれば節税と資産形成のメリットを最大化できるかを具体例で解説しました。
- EPF個人拠出額は年間RM7,000まで非課税
- EPF運用利回りは直近で6%超の高配当
- EPF個人拠出額は年間最大RM100,000まで
EPFの個人拠出額は年間RM7,000まで非課税となり、所得税から控除されることから節税効果があります。また、RM7,000を超えた部分も、EPF積立金として運用可能であり、直近のEPF運用利回りが6%以上であることから、銀行の定期預金より資産運用に適しており、さらに株式投資と比べても安全性が高く、安定した資産形成手段として活用できる点も大きなメリットです。なお、個人拠出額は年間で最大RM100,000までとなります。
最後に補足。
EPF個人拠出率の変更手続きは全く難しくありません。私の場合、会社の経理に希望の拠出率を伝えるだけで、翌月の給与振り込みから更新されました。一度設定した後で変更も可能になります。
会社を退職または日本に帰国する際には、EPF積立金を一括で引き出すことができ、引き出し時も課税されません。つまり、EPF積立はマレーシアで働く日本人にとって、節税効果を享受しながら資産形成も同時に進められる最強のツールと言えます。
まずは現在の個人拠出率を確認し、可能であれば少しずつ増額することから始めてみることをオススメします。本記事が少しでも参考になれば幸いです。

コメント